私は現在、大学院修士課程にてコーチング学を学びながら大学女子バレーボールチームのコーチングを行っている。
『コーチングとは何か?』を私なりに考えてみると、「チームや選手が目標に到達するために支援(サポート)すること」である。私は以下に示すサイクルを繰り返すことで、指導現場においてさまざまな学びを得ている。
①現場で実践する
➁ 実践から振り返る
➂ 振り返りを基に改善策を考案する
これらは一般的に用いられているPDCAサイクルである。しかし、状況判断を瞬時に行わなければならないバレーボールにおいて、臨機応変に素早く意思決定し、最適なコーチングができているかと問われると、やはりまだまだ未熟であると痛感する。
そんな私のコーチングを振り返り、このような形にする機会をいただき、皆さまの学びに役立つことがあれば幸いである。
●大学院って何?
バレーボール教室に集まる小中学生から必ず聞かれる質問である。以下に定義を示す。
学校基本法より(抜粋)
学術の理論および応用を教授探求し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識および卓越した能力を培い、文化の発展に寄与することを目的として設置される教育機関
簡単に言えば、「大学卒業後に、自分の興味がある分野をとことん突き詰める(研究する)ことができる学校」であろうか。
私の所属する大学院にはスポーツマネジメント、スポーツ心理、バイオメカニクスなど体育・スポーツに関する様々な専門分野が存在する。その中でも私の専攻分野は「コーチング学」であるが、「コーチング」と「コーチング学」は似て非なるものであると考えている。
私の考える「コーチング」は文頭に示した通りであるが、「コーチング学」は「指導現場において実践したことを後から振り返り、練習や指導に関する一般理論の構築を目指す研究領域」である。さらに「コーチング学」はパフォーマンス論、トレーニング論、ゲーム論、チーム組織論 の4つから構成され(村木、2010)、この4つの中で私はゲーム論を専門としている。ゲーム論とは戦略や戦術分析のためのゲームパフォーマンス分析を行うことであり、ゲームで起こったことを数値化し「見える化」することを日々突き詰めている。
近年のバレーボール界においては Data Volley や VolleyStation などの分析ソフトが普及し、多くの選手やコーチ、アナリストがデータを駆使して競技力向上を図っている。現に私もこれらの分析ソフトを駆使して戦術や練習計画を考案してきた。
しかし、バレーボール界の《見える化(数値化)》に疑問を持つことが重要であると気づかされたエピソードを紹介する。
他競技を専門とする私の指導教員から「なんでバレーボールはアタック決定率とかアタック効果率という数字で評価することが多いのか?」と問われたことがあった。
テレビやYouTube等でバレーボールをご覧になる方々は、なんとなく一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。例えば、大学女子バレーボールの世界では「アタック決定率が約40%前後」というデータがある。指導教員が、”数値化したものを見る” 時に重視していることは「《見える化》したものから何を見るか?」ということであった。
アタック決定率が約「40%」の数字の部分だけを見るのではなく、「40%」の中にはどんな傾向があるのか?、決まっていない「60%」はどのように貢献しているのか?など「40%」という数字から何を見るかということだ。もしかすると決まっていない「60%」は相手にとってチャンスを生み出しているのかもしれないし、崩すことができているのかもしれない。
多様な視点と発想を持つことでデータはあらゆる可能性を生み出すことが可能となる。こういった視点は研究現場においても、指導現場においても重要なポイントであると感じている。 だからこそ、私は選手個人の技術的な課題もしくはチームの戦術的な課題の評価を行うために、ゲームパフォーマンス分析から課題解決につながる情報を常に探っている。ゆえに、試合や練習の状況を瞬時に《見える化》することができるアナリストは、私にとって欠かすことのできない存在である。

盲点をついた例がこの動画だ。(URL参照:https://youtu.be/xNSgmm9FX2s?si=BYspFIXPRCxRqIhp)白のチームが何回パスしているかを数える、というタスクを与えられると、人は何かを見ようとする一方で「見えなくなる」ことも多々ある。つまり、試合中に数値化できることは限定的であり、すべてのことを数値化することは極めて難しい。特に、数値化したものをもとに、戦術や練習計画を考案するコーチやアナリストは、「“見ようとしていること” を数値化している」ということを念頭に置いておく必要があると感じる。
後編へ続く